かつて、ホラーがごく身近な娯楽だった頃を覚えています。摺しも、のちに「バブル」と呼ばれた好況の時代。高校生の少年少女が、デートなのに「死霊のはらわた」を上映している映畫館の前で入場時間を待っている。レンタルビデオ店には「ホラー」だけでなく「スプラッタ」「ゾンビ」の棚まである。毎月數冊の海外ホラーが、文庫で発売され、持ち重りのするほど紙質も印刷も豪華な女性雑誌でスティーヴン・キングが取り上げられる。景気の波はホラーにも良い時代をもたらしたようでした。
こと、若い人嚮けのメディアでのホラーの理解には、脫帽しました。たとえば、あるティーンエイジャー嚮けのファッション誌には「怖いものを怖いと思えるのも、それでも興味を持つのも健全なセンス」と書かれていました。キングはあるインタビューで「自分が怖れる狀況をあえて小説の題材とすることで、その恐怖を乗り越える」と語っていましたが、それと閤わせて、作り手も受け手も健全だからこそホラーは楽しめるものになるのだ、と、あらためて思ったほどです。
ホラーで描かれるのは、おおむね不幸な狀況です。だからといって、人の不幸を娯楽にするようなジャンルでは、けっしてありません。突然の死。理不盡な苦痛や暴力。日常を踏み荒らす怪物。変貌し安心が消え去った世界......作品の中の恐怖は、現実の恐怖の誇張された鏡像なのでしょう。そして、たとえ非力でも、その恐怖に正麵から立ち嚮かう主人公たちの姿から、私たちは現実の恐怖に抗う勇気を得られる。ホラーの役割は、おそらくそこにあるのでしょう。隆盛をきわめる実話怪談も、何度めかのブーム到來といわれるクトゥルー神話も、おそらくはそんな役割を負っているのかもしれません。
さまざまな不安のなかに私たちが身を置く現在、安楽だったあの時代にもさらに増して、ホラーは役に立つのではないか。そんな思いがよぎることが、ことに最近、多くなりました。
發表於2024-11-14
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圖書標籤: 喪屍
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