本研究は、日本建築史學の揺籃期から1世紀以上にわたって論じられてきた、法隆寺創建時の建物の造営尺度や寸法計畫の問題について、既往研究を詳細に検討しつつその問題點を指摘したうえで、中世の枝割製や近世の木割の考察を踏まえつつ、新説を提示したものである。
本研究は、第1部「遺構の寸法分析の研究史」、第2部「分析のための諸前提」、第3部「法隆寺建築の設計技術」からなる。
第1部では、伊東忠太の柱間比例決定説や関野貞の柱間完數製説にはじまる遺構の寸法分析研究を詳細に検討し、それらが柱間ごとの尺度論に終始し、法隆寺建築の寸法計畫を説明できるものではないこと、そして垂木割に注目した竹島卓一説が尺度論を越える手がかりになることを指摘しつつ、柱間構成法の解明には建物全體の規模計畫に注目する必要があることを述べている。
第2部では、中世の設計技術を分析しつつ、垂木割計畫への意識は古代寺院建築にも見られること、古代遺構すべてが柱間完數で計畫されたわけではなく、「総間完數製」と呼べる技法(建物規模を完數で決めてから柱間を決定する技法)が存在し、それによって柱間寸法が端數になる場閤があることを明らかにしつつ、この技法に注目することこそが法隆寺建築の寸法計畫を読み解く鍵であることを提唱している。
第3部では、柱間寸法の決定に垂木割計畫が関係しているという竹島の指摘を手がかりに法隆寺建築の計畫寸法分析を試み、たとえば金堂では、初重丸桁間寸法を完數(唐尺で正麵60尺、側麵50尺)で決め、10尺に11枝を配する垂木割計畫から派生する端數寸法に近い完數を割り當てて垂木歩みを決め、等分割して柱間寸法を得る技法をそれに組み閤わせたとしている。金堂の高さ計畫や、五重塔、中門、迴廊、伽藍配置の寸法計畫についても提示している。そしてこれらの分析をもとに、長い間定説とされてきた、法隆寺建築での高麗尺使用は認められず、唐尺使用こそが妥當な結論であることを明らかにしている。
これまでに提案されてきたものと同じく、本研究が提示する設計技術も「仮説」に留まる。それは、この種の研究が遺構の実測値を頼りにせざるを得ないことと、説の妥當性を保証する文獻資料が存在しないためである。しかし、「仮説」だとしても、本研究は、長年の周到な探求と設計技術に対する深い洞察をもとにしており、従來の説よりもはるかに説得力があるだけでなく、建物の規模計畫に注目すべきことを提案している點や、唐尺使用を論証した點、垂木割計畫が古代にすでに存在したことを指摘する點など、設計技術の歴史についての従來の認識の見直しをせまる、大きな拡がりをもつことが高く評価できる。
法隆寺金堂の「総間完數製」の規模決定の基準を丸桁間寸法に見ているなど、今後の検証に俟つべき點も見受けられるが、垂木歩みなどに現れる端數は麯尺の操作で容易に得られること(遺構の寸法計畫の分析に近代數學の數の概念を適用すべきではないこと)を指摘するとか、法隆寺金堂の高さ計畫(基壇地覆石上端から大棟中央部上端まで唐尺60尺、上重柱盤上端までがその半分の30尺)や西院の配置計畫(唐尺300尺×200尺)についての提案など、この分野の研究者が真摯に受け止めるべき考察がこの研究には示されており、今後の日本建築史研究に大きなインパクトを與え得る業績といえる。
よって、ここに日本建築學會賞を贈るものである。
發表於2024-12-25
法隆寺建築の設計技術 2024 pdf epub mobi 電子書 下載
圖書標籤: 法隆寺 日本 古建築 伽藍 仏 outline&sketches =海東
溝口先生より、「アジアでは、比例なんか存在しません」XD
評分溝口先生より、「アジアでは、比例なんか存在しません」XD
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