著者は、いま最も注目されている詩人の1人。『永遠に来ないバス』(1997)で現代詩花椿賞を、『もっとも官能的な部屋』(1999)で高見順賞を受賞。本書は初のエッセイ集だ。40篇のどれも、日常よく見るシーンを入口に、柔らかな言葉で、ゆるい傾斜の坂道を上るように、じっくり書き進めていく。それは、大方の読者の、感情や思考の足腰のリズムに沿った速度なので、読者も実際にその場で視界を共にし、物に触っていくような快さがあり、官能的でさえある。
たとえば、娘に自分と同じ「悪」のにおいを嗅ぎつけた母の怒り、人肉をむさぼるようにカニを食らう男女の寸景、大枚を懐に一人そばがきを愉しむ瀟洒(しょうしゃ)な老人とのひとくさりなど、小説に発展していきそうな篇があり、あるいは体温のある言葉で思索された批評の篇がある。また、内外の詩についてのエッセイも多く、その語りの魅力に案内されながら、普段あまり読まない詩に出あう楽しみもある。
屋上といわれて、どこを想像するだろう。デパートの屋上、それとも職場のビルの屋上か。ここでは学校の屋上。夕暮れ、彼女はたったひとりで何を、誰を待っている? もう誰もいなくなった屋上の闇に、ボールのバウンドする音だけが響く。屋上は、何か起こっているのに忘れられているような、寂しい場所だ。ケイタイさえ持っていれば人にとりあえずつながるが、そのケイタイで、殺し殺される関係にも陥る。現代を生きる若い女性たちが、ハンドバッグに蔵っている不安と孤独もまた、この一集には漂っている。(中村えつこ)
发表于2024-11-23
屋上への誘惑 2024 pdf epub mobi 电子书
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