【序章】より(抜粋)
本書は、中國齣土資料の機能を通じて、秦漢時代の郡県製における文書伝達と情報処理、交通システムの原理を明らかにしようと試みるものである。こうした簡牘にみえる情報伝達の特徴を通じて、中國古代國傢と地域社會の特質を解明することが目的である。各章は、以下のような構成である。
第一編「秦漢簡牘の機能と情報伝達」では、秦代の県城である裏耶古城と、県レベルの機構である甲 渠候官と肩水候官、その下部にある肩水金関、県の下部にある懸泉置を基礎として、簡牘の機能(文書逓伝、冊書の文書伝達、情報処理、単獨簡の用法、通行証としての伝)に注目し、秦漢時代の情報伝達の原理を明らかにする。第一章「裏耶秦簡と秦代郡県製」は、齣土資料學としての機能を整理して、県の領域にある地方官府の役割を考察する。第二章「漢代地方の文書逓伝と情報処理」は、中央と地方を結ぶ懸泉置の文書逓伝と、張掖郡に所屬する県レベルの甲渠候官を中心として、冊書の伝達と文書処理を考察する。第三章「漢代地方の文書処理と『発』」は、漢代の文書処理について考察する。第四章「漢代檄の伝達方法と機能」は、冊書の文書に対して、觚の形狀をもち単獨で使用される檄の伝達を考察している。第五章「漢代交通と伝の機能」は、懸泉漢簡にみえる「失亡伝信冊」を手がかりとして、全國に発信される文書伝達と、伝信(伝、通行証)の形態について論じている。第六章「漢簡にみえる地方官府の伝」は、懸泉漢簡の敦煌郡が発給する形式を手がかりとして、伝の形態と機能や、齣張の用務と東方社會との関係、漢代西北の交通維持と規製について考察している。
第二編「秦漢時代の交通と情報伝達」では、交通システムに関する規定や、懸泉置という郵駅の施設、肩水金関、褒斜道の交通ルートにある石刻資料を対象とする。ここでは交通システムと情報伝達に注目し、漢王朝の県レベルの領域にある懸泉置や肩水金関の役割を考察している。第七章「秦漢交通システムと齣土資料」は、中國交通史と齣土資料について概観し、交通システムに関する法令として、張傢山漢簡「伝食律」「津関令」と『奏獻書』などの規定を整理している。第八章「漢代西北の交通と懸泉置」は、懸泉置の構造と漢簡を概観したあと、郵書として受け渡しをする文書と、懸泉置に到達した文書伝達を考察している。第九章「エチナ河流域の交通と肩水金関」は、肩水候官と肩水金関が接近しており、その役割が関連するといわれることから、居延漢簡にみえる両者の簡牘をあわせて分析する。第十章「後漢時代の交通と情報伝達」は、漢中の褒斜道石刻をめぐって、その交通ルートと道路工事の関係を、地域社會との関連で考察している。終章「中國古代の齣土資料と地域社會」は、秦帝國の製度を受け継いだ漢王朝の製度を基本として、地方官府の文書伝達と情報処理の原理を整理している。ここでは漢代の文書処理の方法や、単獨簡の機能を述べている。とくに注意した點は、つぎの通りである。①中央政府の文書行政に対して、地方官府と下部の吏民におよぶ情報伝達と運営の実態を広く対象とすること。このとき県レベルの官府では、秦代の裏耶秦簡と、漢代の居延漢簡、懸泉漢簡を比較して、文書システムの共通規格(format、フォーマット)を解明しようとしている。これは情報技術を重視する方麵である。②漢代の懸泉置と肩水金関の役割を通じて、交通の維持と検察や、人びとの往來、書信と口頭におよぶ情報伝達を考えること。これは古代中國に共通する交通システムの原理を分析する方麵である。③秦漢時代の簡牘の特徴では、齣土した地域性と時代の変化に注意しながら、地方行政との関係を考察した。ここでは情報処理の技術を生み齣したテクノラートとその社會背景を想定し、中國古代國傢と地域社會の特質を展望する。こうした秦漢時代の情報技術は、伝統中國の國傢と社會を考えるだけではなく、東アジアの資料學や、現代の情報社會にかかわるテーマとなっている。
發表於2024-12-23
中國古代國傢と情報伝達 2024 pdf epub mobi 電子書 下載
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