【「序」より】(抜粋)
本書は、硃熹の思想體係全般の論述を試みたものである。…硃熹の理論構築を検討する時に必要なのは、硃熹が自己の主張の説得力をどこに持たせようとしたかを考えることである。時には論理そのものの力により、時には経書の権威を藉り、時には當時の通念に頼る。また硃熹の錶現のしかたも問題になる。「Aは即ちB」と書いてあっても、文字通りAとBが閤同であるという意味から、Aの一部がB、逆にAの一部がB、という意味まで多様である。ただこれらのことを妥協とのみ見なすのは、我々の驕りである。我々とても時に硃熹以上に理論以外の要素を自己の論述に紛れ込ませているではないか。むしろ考えるべきなのは、自他を納得させるには、我々が雑多な夾雑物と見える要素が必要だったということであり、我々はそのような形を取る思想錶現の姿というものを正確に把握しなければならないことである。このような要素をも確実に掬い上げてこそ硃熹の思想研究は充実したものになるはずである。
硃熹の思想體係を描くには、彼の膨大な文獻から、學説の柱として重ねて強調されている諸主張を摘齣し、それらの相互関係を解明することが有効であろう。わずかの例に固執し、それにはずれる他の多くの論述を無理に否定するような試みに紙數を割くことは徒労である。また片言隻語から「哲學的に」引伸し、硃熹があずかり知らぬ地平にまで行ってしまうのも同様である。更に後に「字義」の類が流布した影響もあろうが、理、気、性、惰、という語に過度にこだわるため、硃熹がそれらを駆使して錶現したかった當のものを逃すことも往々にして見受けられる。硃熹はこれらの語を規定するために思想を組み立てたのではなく、これらの語の組み閤わせから思想を浮かび上がらせようとしたのであり、それこそを把握しなければならない。硃熹は、性や心は言葉では説明しきれないということを明言することがある。その意味は重い。
また硃熹が駆使する用語は、以前から使用されてきた伝統的なものが中心であるがゆえに、往々にして複數の意味が含み込まれていて、その用語が他のいかなる用語との対比されるかで意味の力點が変化する場閤も少なからずある。それゆえ各用語は常にどのような狀況で使用されているかを考慮しながらその意味摑まねばならず、具體的作業は本書の隨処に行っている。
ともかくも硃熹思想の研究は、資料全體からその骨格を把握し、それで各用例をどこまで説明できるかを検証し、またそこから先に把握した骨格の妥當性を検証するといったフィードバックを繰り返さなければならないのである。
更に硃熹の思想を扱う場閤には、一つ大きな問題がある。それはこの思想が聖人を目指して修養する人間にとって意味を持つ思想であることである。たとえば硃熹が湖南學から脫卻し一応の定説を四十歳で確立したのは、湖南學の説く已発中心の修養を実修していてその効果に疑問を持ったということが大きかった。もちろんそれに対する理論付けも行っているのだが、実修體験がなくてはその理論の持つ説得力も半減する。このような體得を前提とした思想をどのように扱うのかという問題もつきまとってくる。また後世の硃子學の問題設定は、あくまでもそれがなされた時代のものであって、必ずしも硃熹自身の問題意識を反映していないことにも注意すべきである。本書ではこの件も隨所に論じた。……筆者は今までそれなりの數の硃熹についての論文を書いてきた。……本書はこれらを解體し再構成し、さらに新たにかなりの部分を補筆して成った。內容的には既発錶の論文がもとになっているとはいえ、実際には書き下ろしといってよいものである。単なる論文集ではないつもりなので、関心を持って下さった読者は、通読のうえ筆者が描いた硃熹の思想體係を吟味していただければ幸いである。
發表於2024-11-23
硃熹の思想體係 2024 pdf epub mobi 電子書 下載
圖書標籤: 硃子學 思想史 宋史 海外中國研究 日本漢學 日本 宋明理學 MedievalChina
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